白磁の海

釉に漂う日々

青春の影

Untitled

仕事帰りに立ち寄るいつものコンビニ。深夜ということもあって、客は殆どいない。

女性の店員さんはとても感じが良く、店は心地よい雰囲気で気に入っている。

ちょうど店にたどり着いた頃、イヤホンから聞き慣れない曲が流れてきた。

歌っているのは、鬼束ちひろ

これまで彼女がこの世に生み出したほぼすべての曲を愛聴してきた。

けれども、僕は本当にその曲を聞いたことがなかった。

歌声はややハスキーで伸びやかだ。間違いなく2000年代前半の声だと思った。

これは、と思ってケータイを見てみると、曲名は『青春の影』だった。

『君を幸せにするそれこそがこれからの僕の生きるしるし』

コンビニで買い物を済ませ、家へ帰る道中、僕はその曲を何度もリピートした。

帰ってから調べてみると、どうやら2003年のライブ中に披露したカバー曲だそう。

隔世の感があった。改めてYouTubeでリリックビデオを見た。

人生という引き返せない一本道を、共に歩こうとする二人の後ろ姿が見えた気がした。

僕の半生を顧みると、鬼束ちひろは確かに僕の生きる糧であり、

ある意味人生の伴走者だったと思う。

でもきっとそれはかりそめで、本当はもっと手触りのある青春が存在したのだと思う。

既に多くの時が流れ、僕はついぞそれを手に入れられなかったが。

今日も誰かの一本道が、大切な人の心に通じていますように。

彼女の一本道が僕の心を通り過ぎ、また誰かの心を温めていますように。