白磁の海

釉に漂う日々

2023-01-01から1年間の記事一覧

隙間風

窓際に並べた数十冊の本が 冷たい隙間風を心做しか防いでくれている 赤や黄色や緑の色合い 文庫本や単行本が織りなす不規則な境界線 インクの匂いや、猥雑な古書店の臭い、いつのまにか染み込んだ生活臭 本を通り抜けたわずかな隙間風は 混沌として蒙昧な気…

12月が戻ってきた

12月は後悔と安堵の月 12月を題材にした曲は多いですが、自分にとっては Taylor Swiftの「Back To December」がとても思い出深いです。 後悔と寂しさの塊みたいな曲。 あのとき、大好きだった人に何も伝えられなかったもどかしさ、 幸せになっていく人を横目…

遅まきの秋に

時間も季節も加速度を増しているよう 瞬きをする間に土手沿いのイチョウ並木が寂しくなって 買ったばかりのスニーカーの踵は早くも水平線を失い ファインダーを極彩色で染め上げるため、 愛車の走行距離はぐんぐん伸びる そう、遅まきの秋の短さに負けぬよう

素描

大事に壜にしまっておいたものを不意に壊したくなって 粉々にしてしまった なんて心地よい カタチがなくなり均衡が崩れた 空虚な空間

人間を脱ぐ

ー 人間を脱ぐ、この時間がなければ私は枯れてしまうから 『ちひろさん』という漫画で印象に残っているセリフ 人間を脱ぐ、ということの意味がなんの抵抗もなく理解できた こういうことは案外多くないと思う 活字の中に自分を探す日々 生産性のないこの日々…

手持ち無沙汰で

もうしばらくカメラを持って出歩けていない。 真夏の日差しのような衝動性が影を潜めてしまった。 休日は仕事をしたり、仕事のために休んだりしている。 正直写真を撮ってなんの意味があるのか分からなくなる。 賞を取るわけでもないし 誰に褒められるでもな…

晩夏

いつしか朝晩は冷え込むようになり、 頬をつねりたくなるあっけなさ 肌に暑さが取り残され、疼いている 鈴虫がいつしか部屋の中に入ってきたようで、 けたたましく鳴いている そんなに叫ばなくても秋が来ていることは気づいているよ 肌寒くなると、野良猫を…

朽ちてこそ

さびれた駅前で腐食した金属 潮風に吹かれたセンチメンタルはみるみる癒着し 今日より明日を良くするための言葉は意味を持たぬ 錆び、腐り、壊れていく日々と肉体に狂う

寂しさとは

ひっそりと秋づいてきたと感じる つくづく、月日の短さが身にしみる 「恥の多い生涯」かどうかはわからないが、全く思い通りにならず、 負け犬のような人生を送ってきたと思う 心の弱さの拠り所が文学や芸術だった 自分の居場所は人と人の間ではなく、文字や…

居間

私は居間の一人がけソファで文庫本を読んでいる 彼女は掃除機をかけている ずり落ちてきたズボンをきゅっとあげて はすっぱな表情で私を見る 気がつくと私は文庫本を開いたまま 仰向けになっていた 文章の一文字が抜けていたことが気がかりだった

滲み

青空を掻きむしりたる白雲を 我汚したし 血糊の如く

花火へ

小指ほどの 小さな虫をつかまえて 花火に投げし子を抱きすくむ

あるいは昼下がり

興醒めてしまった午後 あるいは昼下がり 一色一色が枯れていくのを見ていました 最後に取り残されたのは僕の濃紺のスニーカーと あの子のべに どうやら おひさまがすべてかくしてしまったらしい

7月の夜に

体にのしかかる大気で どうやら何もかも忘れてしまったらしい 街角を曲がる時 黄色帽子の小さな子を見ることも 鍵盤の上 ぎこちなく踊る指先も 終わる時 あの子の名前をつぶやくことも 全部そっくり忘れてしまった いや、溺れてしまったのだ 7月 だれもいな…

遠ざかる

教室のざわめきから遠ざかる 木立の鳥の歌声から遠ざかる 夕暮れ 懐かしい台所のにおいから遠ざかる 笑顔の君から遠ざかる 遠ざかって 疲れた猫背の哀れな人です

紙切れ

トラックに轢かれて舞い上がった紙切れが 煙にまかれて黒く染まっていく 帰り道を見失った子どものように 信号は泣き叫んで止まった 通り雨

陰鬱な空、海

海辺にて 向かいのアパートの屋根に巣立ちの時を迎えた一羽の子雀がいた。 親鳥に追い立てられながらも、爪を立て、必死に屋根にしがみついていた。 今まさに飛び立とうとする空は陰鬱な鉛色で、押しつぶされそうなのかもしれない。 うたたねをしていたら群…

木漏れに