白磁の海

釉に漂う日々

寂しさとは

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ひっそりと秋づいてきたと感じる

つくづく、月日の短さが身にしみる

 

「恥の多い生涯」かどうかはわからないが、全く思い通りにならず、

負け犬のような人生を送ってきたと思う

心の弱さの拠り所が文学や芸術だった

自分の居場所は人と人の間ではなく、文字や色彩の間にあった

世間との間に一本の防衛戦を引き、隔絶した自分だけの心の世界を作った

 

この頃、その防衛戦から爪先を少しだけ出すことができるようになってきた、

と思っていた

しかしふとした瞬間に、人が自分と同じ方向を見ていないことを感じる

微かなすれ違いや思い違いを抱いたまま、惰性で同じ時を過ごしている気がする

一緒にいて、寂しい

 

私は怖いのだ

心に抱えてしまった仮想の世界を人に知られ、拒絶されることが

そして同時に期待している

この世界で共に生きてくれる人が現れることを

 

恐怖と恋しさの先に、何があるのか

身の破滅があるような気がしてならないが、あいも変わらず閉じこもっている

居間

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私は居間の一人がけソファで文庫本を読んでいる

彼女は掃除機をかけている

ずり落ちてきたズボンをきゅっとあげて

はすっぱな表情で私を見る

気がつくと私は文庫本を開いたまま

仰向けになっていた

文章の一文字が抜けていたことが気がかりだった

あるいは昼下がり

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興醒めてしまった午後

あるいは昼下がり

一色一色が枯れていくのを見ていました

 

最後に取り残されたのは僕の濃紺のスニーカーと

あの子のべに

どうやら

おひさまがすべてかくしてしまったらしい

7月の夜に

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体にのしかかる大気で

どうやら何もかも忘れてしまったらしい

 

街角を曲がる時

黄色帽子の小さな子を見ることも

鍵盤の上

ぎこちなく踊る指先も

終わる時

あの子の名前をつぶやくことも

 

全部そっくり忘れてしまった

いや、溺れてしまったのだ

7月

だれもいない蒸し暑き部屋で

遠ざかる

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教室のざわめきから遠ざかる

木立の鳥の歌声から遠ざかる

夕暮れ

懐かしい台所のにおいから遠ざかる

笑顔の君から遠ざかる

 

遠ざかって

疲れた猫背の哀れな人です